マイホームを購入したときには考えもしなかった、想定外の事態としてあげられるうちの一つが、『病気』です。

突然、大黒柱であるあなたが病を患い、休職をよぎなくされ無給状態…それでも待ってはくれない住宅ローン返済。それだけでなく、入院や治療、いままでなかった出費まで。

収入が途切れることなど考えもしなかった事態に、仕事にいつ戻れるか分からない不安。

このまま住宅ローンが払えなければ、競売にかけられ強制的に家を追われ、家族みんなが路頭に迷ってしまうのでは…

この先の見えない状況に、パニック状態に陥ってしまいそうにもなるかもしれません。

しかし、どんなに落ち込んでもパニックになっても、迫りくる状況が変わることはなく、今すぐにあなたの病がなくなることもないのです。

今はとにかく「やれることはやる」と、冷静に対処法を考えなければなりません。

ここでは、住宅ローン返済中に病気になってしまった時に、とにかくまずあなたがやれることとして、5つの対処法についてお話ししていきます。

この記事の目次

0.現状の冷静なみきわめ

少々キツい表現もあるかもしれませんが、ここで大切なのは、過度な”希望的観測”をしないこと。

そして、とにかく返済をつづけていける収入を、早急に確保しなければなりません。

これから5つの対処法をお話ししていきますが、まずはあなた自身が自分とむきあい、現状を受けいれて自分に正直になること。それが一番はじめにすべきことでしょう。

ご家族にたいする義務感や責任感など、色々な思いもあるでしょうが、ムリをすれば最悪の事態をまねきかねません。

家や職などは一度うしなったとしても、いくらでも取りもどす機会はあるでしょう。

しかし、あなたの身体はそうはいきません。

たとえそれが一生涯つきあっていかなければならない病だとしても、早めに判断をしたことにより、金銭面での負担を最小限におさえることができれば、その後の生活は違ってくるのではないでしょうか。

一時的に奥さまに負担をかけてしまっても、家族で協力しあっていけば何とかなる。

はじめはそう思っていても、生活がかなり苦しい状況のまま、それがいつまで続くかも分からないとなれば、耐えられなくなってしまうかもしれません。

住宅ローンというのは、数年でおわるものではなく、何十年とつづくものです。

今、一時的に支払いができたとしても、その先の見通しが立たないのであれば、早めに手放すことでご家族を守るという考え方もあります。

これからお話しする対処法によって確保した収入が、その場しのぎに過ぎなかったとすれば、のちにまた支払いができない事態に、頭をなやませることになるでしょう。

仮に、住宅ローンの返済がなかったとすれば、その収入はこれから先の生活の支えとなるのです。

今のあなたの病状から、また近いうちに元の収入に戻せるのか。ご家族の状況から、その間の協力があれば持ちこたえられるのか。

まずそれを冷静にみきわめ、ご家族とも話しあいながら、判断することではないでしょうか。

1.加入している保険を確認する

団体信用生命保険

略して”団信(だんしん)”と言われたりもする、住宅ローンを組んでいる方が加入する生命保険です。

そもそもの前提として、先にお話しをしますが、すでに住宅ローンの滞納がつづいてしまったことにより、金融機関から「もう月々の返済はみとめないので、一括返済をするように」と求められている『期限の利益の喪失』という段階だとすれば、この団信は解約され無効になっているでしょう。

この団信の基本的な保障内容は、「死亡」「高度障害」のさいに、残っている住宅ローンとおなじ金額の保険金がおりる、というものです。

簡単にいってしまえば、被保険者が「死亡」「高度障害」になったら、住宅ローンがチャラになる保険です。

ではこの「高度障害」というのは、どういう状態を意味するのでしょうか。

『高度障害』

保険期間中に、以下のいずれかの状態になったことを言います。

1.両目の視力をまったく永久にうしなったもの
2.言語またはそしゃくの機能をまったく永久にうしなったもの
3.中枢神経系・精神または胸腹部臓器にいちじるしい障害をのこし、終身常に介護をようするもの
4.両上肢(腕)とも、手関節以上(手首から先)でうしなったか、またはその用をまったく永久にうしなったもの
5.両下肢(脚)とも、足関節以上(足首から先)でうしなったか、またはその用をまったく永久にうしなったもの
6.1上肢を手関節以上でうしない、かつ1下肢を足関節以上でうしなったか、その用をまったく永久にうしなったもの
7.1上肢の用をまったく永久にうしない、かつ1下肢を足関節以上でうしなったもの

※保険会社により内容が異なるため、くわしくは加入している保険会社に確認する必要があります

”高度”とついているだけあって、それ相応の状況ということになるでしょう。

逆にいえば、ここまでの状態にならなければ、住宅ローンの返済をつづけていなかければならない、ということです。

しかし、ここまでいかなくても、長期就業がむずかしくなるケースというのは、決して珍しいことではありません。

たとえば、最近ふえているうつ病などの精神的な病気や、糖尿による人工透析などの定期的な通院も、今までと同じペースでの就業がむずかしく、大幅な収入減につながる可能性はあります。

中には三大疾病特約付き、生活習慣病特約付きなど、保険料は割高になりますが、手厚い保障をつけている団信に加入していることもあるかもしれません。

あなたが加入している団信の保障内容は、どんなものになっているでしょうか。

まずは、保険がおりるケースに該当していないか、チェックしてみるとよいでしょう。

個人保険

各ご家庭で加入している生命保険はもちろんのこと、会社員であれば、会社がまとめてかけている保険がある場合もあります。

その場合には、入社時などに契約書を書いているハズですが、給与天引きになっていたりして、忘れている方も多いようです。

それから、労働組合が会社とは別で保険をかけていたりすることもありますから、申請できるものがないか、会社や組合に確認してみるとよいでしょう。

細かい話にはなりますが、医師の診断書の表記のしかたによって、保険金がおりるかどうかを左右することもあります。

おなじ病状なのに、診断書の書き方ひとつで、「貰えるものが貰えない」ということにならないよう、保険担当者からしっかり話しを聞いておいた方がよいでしょう。

2.利用できる公的制度がないかチェックする

ここからお話しする公的制度について、”収入を確保する”という観点からみると、ほとんどが事業者に雇われている労働者を対象としたものです。

そのため、自営業者にとって利用できる部分は、”負担をへらす”という制度になります。

あなたが自営業者であったとすると、いかに事前にリスクにそなえて、民間保険でカバーしておくかがカギであり、病気で働けないという事態が起こってしまってから、公的に収入確保をすることはむずかしいでしょう。

労災保険

労災という言われ方が一般的になっていますが、労働者災害補償保険のことです。

『収入の80%×最長180ヶ月補償』
『医療費の自己負担0円』

これは、事業者が従業員に対してかけている保険なので、正社員・アルバイト・パート・日雇いなど、雇われている労働者が対象になります。

請負契約や委託契約、会社の代表者や役員などは、基本的には対象外になりますが、特別加入制度によって加入している事業主や、一定の条件をみたす役員は、この限りではありません。

それから労災というのは、あくまで仕事中のケガや、仕事が原因でなった病気の際に利用できる保険ですので、それ以外の病気やケガにおいては、健康保険を利用することになります。

労災保険情報センターHP

傷病手当金

こちらも、雇われている労働者が対象の手当金になりますが、病気やケガによる休業中に、あなたとあなたのご家族の生活を保障するために設けられている制度です。

『収入の約60%×最長18ヶ月支給』
『医療費 一部負担』

休業中に、事業主から十分な給与が払われていない場合に支給されます。

労災が適用されないケースにおいて、利用することができますが、実際に給付される金額や、給付にあたっての注意点など、くわしくは会社へ確認しておかれるとよいでしょう。

医療費軽減

こちらは、確定申告をする必要がありますが、給与所得者だけでなく、事業主の方でも利用できる制度になります。

医療費の負担を軽減することができる4つの制度について、簡単にみていきましょう。

高額療養費

収入に応じて、月に負担する医療費の上限がもうけられています。

会社のさだめる健康保険組合などに加入している場合は「健保」
そのほか自営業の方など国民健康保険に加入している場合は「国保」

保険外併用療養費

保険が効かない自由診療と、保険が効く3割負担の診療は、通常併用して受けられません。

一部でも保険適用外の診療をおこなっている場合には、保険適用ができる部分の診療についても100%自己負担となるのが本来です。

しかし、一部みとめられている先進医療などについては、併用診療をすることができるようにする制度です。

該当する診察であれば、保険適用の診療部分については、3割負担で受診することができます。

入院時食事療養費

入院時の食事についても、療養の給付とあわせて一食ごとに給付をうけることができます。

訪問看護療養費

医師が、在宅療養をうける必要があるとみとめた場合に、指定の訪問看護ステーションを利用することで、7割部分は給付をうけることができますので、実質3割の負担で利用することができます。

障害(厚生)年金

一定の障害が残ってしまった場合には、その障害の認定をおこない、1~7級までの等級に分けられ、等級に応じた給付金が毎年支給されます。

厚生年金加入者には、国民年金・厚生年金それぞれから障害年金が支給されますが、その金額については調整の上、支給されることになります。

生活保護

生活に困窮する方に対し、健康で文化的な最低限度の生活ができるよう保障するとともに、自立を助長することを目的とした制度です。

その困窮の程度におうじて、必要な保護をしてくれるものですから、就業がむずかしい時には、あなたが復帰できるまでのあいだ、金銭的な支援もうけることができます。

ただし、持ち家があるままでは、生活保護受給者としてみとめられません。

自宅を売却をしてからでないと、申請ができないということになりますが、その自宅がなかなか売れないために、生活保護をうけたいのにうけられない、という人もなかにはいるのです。

3.親・兄弟・親族へ相談する

まずは、保険や公的制度でやっていかれるかどうかを確認しますが、それだけでは月々の支払いが間にあわないようでれば、親・兄弟・親族、もしくは借り入れ先金融機関へ相談することになります。

先に身近な人に協力をお願いすることを挙げたのは、金融機関への相談は、あくまで先延ばしにするだけなので、のちにシワ寄せがいくことになります。

そのため、まずは身近な人にお願いできるのであれば、そちらからの方がよいでしょう。

キャッシング

「親・兄弟には頼めない」といって、消費者金融やクレジットカードのキャッシングを利用してしまうのは、できるだけ避けた方がよいです。

審査が甘かったり、手元にあってスグにでも引き出せる状態にあったり、カンタンに借りることができてしまう分、金利は15~18%ととても高く、のちに住宅ローンにくわえてキャッシングの返済と、月の返済額がふえてしまい、自転車操業になってしまうかもしれません。

できるかぎり出費をおさえ、節約をしてギリギリなんとかやりくりをしてきたが、ついに貯金が底をつき、それでも住宅ローンの返済を遅らせないために…と、今月だけしのぐつもりでキャッシング。

いつしか多重債務に陥ってしまって、結局どの借り入れも返済できない状態になり、自己破産しか道がなくなってしまった、というケースは少なくありません。

返せる見込みのない借り入れは、のちの生活に重くのしかかってくるだけですから、他の手立てを考えるべきでしょう。

4.リスケジュール(返済計画の見直し)

あなたが住宅ローンを借り入れている金融機関に相談して、返済計画の見なおしをすることです。

あくまで、一時的な手段であり、金融機関にそこまで柔軟な対応をしてもらえるとは、考えがたいでしょう。

金融機関としても、少しのあいだ見なおしをすれば、その後の返済は問題なくしてもらえるだろうと判断できなければ、みとめることはできません。

このリスケジュールには、主にふたつのパターンがあります。

1.返済期間の延長

延長といっても、35年をこえる返済期間にすることはできませんが、たとえば元々25年ローンで組んでいる場合や、経過した返済年数分をのばす、といったことはできます。

このように、返済期間をのばすことで、月々の返済額をいまより下げることができます。

しかし、返済期間がのびるということは、それだけ利息も多く支払うことにはなりますし、高齢になっても住宅ローンの返済をしなければならないことになりますから、よく考えるべきでしょう。

2.元本返済の猶予

一定期間は利息のみ支払いをして、そのあと今までの返済額+支払っていなかった期間の元本を、分割で上乗せして返済する、という方法です。

たとえば、今の返済が、元本10万円・利息2万円の、月12万円だとします。

リスケジュールにより、一年間は利息の2万円のみを支払い、一年後から12万円に1万円上乗せをして、月13万円ずつ返済をしていくというような考え方です。

のちの返済額が今より高くなるので、収入がもとに戻ることが分かっているようでなければ、あまり有効な手段ではないでしょう。

 

しかし、どちらの方法にせよ、あなたの意向だけで決められるものではありません。

そもそもリスケジュールが認められるかどうかも含めて、金融機関に相談してみることでしょう。

5.家を売却する

どうしても返済をつづけていくことが困難であれば、やはり家を手放すということも、考えた方がよいでしょう。

いくら収入源を確保しても、それがすべて支払いへと流れていってしまう日々がつづくことで、精神的にあなたを追い詰めてしまうことにつながりかねません。

繰り返しにはなりますが、住宅ローンの返済というのは、一年や二年でおわるものではなく、何十年とつづくものですから、一時的にしのぐことができたとしても、あなたの復職のメドがたたなければ、いつかはまた支払いに頭をなやませる時がくるでしょう。

家や職はたとえ失ったとしても、また取りもどす機会はあるでしょうが、あなたの身体はそうはいかないのです。

それだけでなく、返済困難な生活がつづいていることから、普段なら気にも留めないようなことで言いあいになったり、ご家族との関係に影響してしまうことだって考えられます。

そのような事態をさけるために”売却”という選択も、私は勇気ある決断だと思っています。

しかし、通常は残債がのこったまま売却はできないため、家を売ってもなおローンが残る、オーバーローンという状態であれば、その分は一括返済をしなければならないのです。

住宅ローンが払えない…という状況において、一括返済というのは現実的ではないでしょう。

もしあなたの状況が、オーバーローンになるけれど、残ってしまったローンの一括返済もできないという状況であれば、通常の売却ではなく、任意売却という方法をとることになります。

この任意売却というのは、”住宅ローンの支払いができない人のための救済手段”のひとつとして存在する手続きです。

カンタンに言ってしまうと、住宅ローンが残ってしまったとしても、その残債を無担保ローンとして返済していくことで、売却ができるようにする手続きです。

任意売却についても、リスケジュールと同様、金融機関からの承認が必要となりますが、別記事『任意売却とは?競売との違いも含めてわかりやすく解説』にて、くわしくお話ししていますので、こちらも併せてお読みください。

まとめ

もし働けない状態になってしまった際に、住宅ローンの支払いができなくなることが、目にみえて分かっているのであれば、一日もはやく、しかるべきところに相談することです。

住宅ローンの支払いであれば、借り入れ先の金融機関でしょうし、オーバーローンになる住宅の売却ということであれば、不動産会社になるでしょう。

ただし、任意売却に関しては特殊な売却になるので、できれば専門としている不動産会社の方が安心です。

選ぶ会社によって、あなたの家の売却が成功するか失敗するか、結果がかわってきてしまいますからね。

とにかく、まずは冷静に現状をうけとめ、この先どうするかをご家族と話しあうことからでしょう。