競売になるかならないか、あなたにとって大きな分かれ道となる「任意売却」ですが、いざやると決めても、トントン拍子にうまくいかないこともあります。
ここでは、任意売却がみとめられないために売れなかったなど、そもそも任意売却ができないのではなく、任意売却を試みているにもかかわらず、売れなかったらどうなるのか、ということをお話ししていきます。
この記事の目次
もし任意売却できなかったら?競売までの流れ
あなたが、「任意売却をしたい」と選択をしたところで、必ずしも任意売却ができるというワケではありません。
なぜ任意売却ができないのか、その原因として考えられる理由は、あとで詳しくお話ししていきますが、ここでは、競売になってしまった時、どのような流れであなたに何がおこるのか、時間の経過とともに一覧にまとめて見ていきましょう。

ここで、一つ忘れてはいけないポイントがありますので、取り上げておきます。
③「期限の利益の喪失」・代位弁済
あなたは、住宅ローン分割払いの権利をうしない、金融機関から一括での返済を求められます。
一括での返済ができなければ、あなたが住宅ローンを組んだときに、あなたの保証人になっている保証会社が、代わりに金融機関に一括返済をします。
そして、あなたが返済をおこなっていく相手は、金融機関から保証会社へかわります。
ここまでは、記載通りなのですが、保証会社へ移ったところからも、返済が遅れているときにかかる、遅延損害金がかかっているのです。
もちろん、それまでの金融機関への返済にも、遅延損害金はかかっていますが、それまでは月々の返済額にたいしてかかっていましたので、そんなに大きな損害金額ではないでしょう。
しかし、あなたが今まで金融機関と約束をしていた、毎月いくらずつ返済という条件は、この保証会社へは引き継がれません。
したがって、住宅ローン返済の相手が保証会社へ移ってから、こんどは保証会社から一括返済を求められます。
期日までに払えなければ、全額に対して遅延損害金がかかってくることになります。
実際の住宅ローン遅延損害金は、14~14.6%のところが多いです。
「ローン残債2000万円×遅延損害金14.6%÷365日(366日)」この計算で、一日にかかる遅延損害金が算出できます。
1日なんと…
8000円もの損害金を取られてしまうのです。これが、初めて払い遅れた日の分からかかってくるワケですから、売却が一ヶ月さきになるだけでも、ものすごい遅延損害金を取られるのが分かりますね。
月数万円に対してかかるのと、まだ住宅ローン残債が数千万円あるならば、その全額に対してかかるのとでは、かなりの差になるでしょう。
この遅延損害金も、もちろん今後あなたが払わなければならないものですから、任意売却にしても、競売にしても、とにかく売却をして返済しなければ、毎月どんどん増えつづけていってしまいます。
あなたは、そのこともしっかり頭に入れておく必要があります。
この競売までの流れから
保証会社が代位弁済をしてからは、あなたが「任意売却をしたい」という意思をしめさない限り、この流れをとめることはできません。
しかし、流れをとめると言いましたが、任意売却ができるまで、いつまでも待ってくれるワケではありません。
そのあたりは保証会社の判断となり、少しだけ猶予をくれる会社もありますが、競売までに間にあえば任意売却してもいいよ、というスタンスの会社も少なくありません。
そうなれば、任意売却ができなかったから、そこから改めて競売に移っていくといった、区切りがあるわけではなく、保証会社によって競売の手続きがすすめられていく中で、任意売却を試みるということになります。
いずれにしても、保証会社から競売の申し立てをされてしまえば、もう一括返済ができない限りは、この流れをとめることはできません。
あくまで、任意売却というのは「⑫の開札日までに、間にあえばできる」ということです。
「早めの相談を」と申し上げているのは、この開札日までの期間が長いほど、任意売却ができる期間が長くなり、あなたにとって有利な任意売却を試みることができるからです。
競売でも売れないコトはある?
結論からいうと、競売でも売れないことはあります。
表「⑪期間入札の開始」のところで、入札期間は1週間だとお伝えしました。
期間内に、どの物件にもかならず入札があるかというと、入札希望者があらわれないこともあります。
その場合は、そこからさらに1週間、こんどは「特別売却」をすることになります。
裁判所が決めた”売却基準価額”以上の価格であれば、はじめに入札した人が落札できる、という売却方法です。
ようするに、早いモノ勝ちということです。この期間は、たとえタッチの差で、二番目の入札希望者が、もっと高い価格で買う!といっても、一番はじめに入札をした人が落札することになります。
この特別売却でも売れなければ、最低落札価額を見なおして、ふたたび期間入札→特別売却と、この流れを3度くり返します。
この流れを、簡単な図にして見てみましょう。

「競売」が長引くほど、最低入札価格はさがっていき、遅延損害金はふえていきますので、あなたが返済にあてられる金額が、どんどんさがっていく可能性が高くなる、ということになります。
ここまでのことから、「競売で売られずにすんだ」「まだこの家に住める」と、喜べるものでは決してないことは、お分かりいただけたのではないでしょうか。
競売でも売れなかった…その末路とは
先ほどの図からも分かるように、債権者が再び「競売」の申し入れをすれば、また1からの流れを繰りかえしていきます。
しかし、債権者からしても、競売をするにはお金がかかります。
可能性がないと判断するような場合には、はじめから競売の申し立てすら行わないでしょうから、競売申し立てがあれば、実際には取消までいかずに2~3回目の期間入札で、落札されるケースがほとんどです。
つまり、債権者も競売を申し立てるからには、落札されるだろうという確信がもてているということであり、ここまでに至るケースは、ほとんどないでしょう。
繰りかえしになりますが、競売が長引けば、売却される金額がどんどん下がっていく可能性が高くなり、遅延損害金はふえていくワケですから、あなたにとってメリットといえるものは、ハッキリ言ってないでしょう。
仮に、競売になってしまったとして、一回目で落札されたら”よかった”と、思うべきところなのかもしれませんね。
任意売却がうまくいかない3つの理由
任意売却をしているのに、なかなか購入希望者があらわれない。
このままでは、
また遅延損害金がふえてしまう…
競売にかけられてしまう…
焦る気持ちも分かりますが、冷静に「なぜ売れないのか」を考えなければなりません。
ここでは、任意売却がうまくいっていない時に考えられる、3つの原因を挙げていきます。
販売価格が高すぎる
販売価格については、あなたとパートナー会社だけで、勝手に決められるものではありません。
債権者の許可をえる必要がありますが、そこからなかなか買い手がつかない場合には、見なおしも必要になるでしょう。
そこで、債権者の方から、価格の見なおしを提案をしてくれるワケではありません。
債権者は一円でも高く売れれば、そのぶん回収できるという考えです。
一度きめた売り出し金額を、あなたが下げたいというのをシブることはあっても、あなたに下げましょうよとは言ってこないでしょう。
しかし、ただ売れないから下げたいというのではなく、たとえば返済のことを考えるあまり、相場よりも高く売り出していたとすれば、やはり適正な金額にしなければ、売れるものも売れないでしょう。
こういった場合には、あなたのパートナー会社が、価格の見なおしができるように、債権者に粘り強く交渉するべきところです。
パートナー会社の交渉力も、大きく影響してくるところといえます。
物件のイメージが悪すぎる
内覧する人はいるのに…結局うれない。
そんな時に考えられるのが、内覧者からのイメージが悪い、ということです。
具体的な例を3つ挙げてみましょう。
汚れや散らかりがひどい
あなたが、家を購入しようとするとき、その家がまったく掃除もされていない様子で、モノが散らかり放題だったら、買いたいと思うでしょうか。
玄関や庭に、枯れて伸びきった草木が山のようにあったら、どう思われるでしょうか。
その視点から、今の状態をみていただければ、お分かりいただけるのではないでしょうか。
あまりキレイに使われていない家、大切にされていない家、自分たちの新居がそれは嫌だ、と感じる人もいるでしょう。
私の経験から、あまりにも…という状態、かつ、ご自分で清掃がおこなえない、といった場合には、ご本人と相談のうえで、不動産買取業者にお願いしたケースもあります。
一般の方に販売をするときには、このイメージというのも、とても大切なポイントになります。
モノが多すぎて広くみえない
どの部屋もモノがぎっしり。
これでは、もしかしたら「狭い」という印象を、与えているかもしれません。
生活をしていれば、モノが増えるのは仕方がないのかもしれませんが、今後あなたも引越しをすることなどを考えて、必要のないモノは早めに処分しましょう。
スッキリすれば、印象がかわることもあるでしょう。
あなたの印象がよくない
あなたが居住中であれば、内覧者にとっては前オーナーの顔が見える、ということですから、内覧者にとって印象がよくなければ、それも購入するかに影響してくるでしょう。
ムリに明るくふるまう必要はないでしょうが、なにか質問をうけた時にぶっきらぼうであったり、あまりにもあなたが見た目に気を遣っていなかったり、購入したくないなと思わせてしまうところはないでしょうか。
内覧をする人に、「都合のわるいところは見せない」などの行為も、マイナスでしかありません。
あなたのパートナー会社に問題がある
ここは、あなたが感じとるよりほかないのですが、判断する目安となる点を2つ挙げておきます。
任意売却の経験が少ない
たとえば1.の販売価格の交渉もそうでしょうが、債権者との交渉がなかなか上手くすすまない。
それから、必要なものの確認が不足していて、後からあれこれとあなたに連絡をして、一度ですむことを何回も追加で確認してきたり、慣れていないとそんなこともあるでしょう。
内覧希望がない
依頼したのに、それからまったく内覧希望者があらわれない。
売り出し物件の情報を、きちんと載せていなかったり、販売活動を積極的におこなっていない、などの可能性があります。
不動産業者だけが見られる物件情報システム(レインズといいます)に登録していれば、絶対とはいえませんが、少なからずあなたのパートナー会社だけでなく、他の不動産会社からも内覧の申し入れがあるでしょう。
毎回パートナー会社が内覧希望者をつれてくる、けどそれもポツリポツリで、今までほとんど内覧の申し入れがない。
もちろん、あなたのことを一番に考えて、積極的に内覧希望者をさがしてくれているのは、パートナー会社のハズですから、絶対とはいえない部分ではあります。
まだ任意売却ができていないあなたに”残された選択肢”
販売価格をさげる
今の売り出し価格に、あなたがなにか違和感を感じているのであれば、パートナー会社に相談をしてみましょう。
もちろん、そこでパートナー会社からもアドバイスなどあるでしょうが、価格をさげるのが賢明だと判断すれば、あなたの代わりにパートナー会社が、債権者に交渉をすることになります。
しかし、ただ単に売れないから価格をさげるというのは、あなたにとっても返済できる金額が少なくなるワケですから、マイナスでしかありません。
他にできることがあるのであれば、まずはそちらからやるべきでしょう。
物件のイメージをあげる
庭や玄関先・各部屋の清掃、それから長年かけてたまってしまったモノの整理。
これらは、状態にもよりますが、今のあなたがお金をかけずにできることが、ほとんどのハズです。
たとえば、大きな粗大ごみは、市や区に依頼すれば、一般の業者より安く処分できるでしょうし、ノコギリや金槌をつかって分解できれば、一般ゴミとして処分できるモノもあるでしょう。
家具・家電・衣類はリサイクル業者を活用したり、本であれば古本屋の買取も利用できるかもしれません。
任意売却の契約態様をかえる
これは、あなたが任意売却を依頼したときに、その会社と交わした契約態様のことです。
一度にむすぶ契約の期間は、最長3ヶ月となっており、その後も引きつづき依頼するのであれば、契約を更新していくことになります。
契約書に必ず載っていますので、どの態様で契約しているか、確認してみてください。
「専属専任媒介契約」
この契約をむすんだ会社は、あなたの家を独占的に販売できる、ということになります。
あなたからすれば、一つの会社に絞って、任意売却をお願いするということです。
この契約をむすんでいるのであれば、たとえば「あなたの友人が買いたい」といった場合でも、その不動産会社があいだに入り、友人は仲介手数料を支払って、売買をおこなうことになります。
しかし、この契約をむすんだ会社は、あなたの家を独占販売できる権利があるぶん、2つの義務もあります。
1.あなたへの報告義務
週に1回、売却の進捗状況を、あなたに報告する義務があります。
2.レインズへの登録義務
レインズとは、国土交通省指定のデータベースのことで、不動産業者のみが閲覧できるものです。
5営業日以内に、あなたの家の情報をレインズへ登録する義務があります。
不動産会社からすれば、決められた期間内に買い手を見つけなければ、売買契約ができずに仲介手数料が入らない、ということになります。
そのため、あなたにとって、高い確率で買い手が見つかる、というメリットがある契約です。
「専任媒介契約」
先ほどの契約から、専属という文字が抜けています。
これは、あなたが自力で買い手を見つけることもできる、という契約態様です。
専属のときとは、不動産会社の義務も少しことなります。
1.あなたへの報告義務
報告する義務はありますが、2週間に1回の報告となります。
2.レインズへの登録義務
こちらも、登録する義務はありますが、7日以内に登録すればよいとされています。
この契約であれば、親戚や友人など、身近な人が買いたいといった場合、あなたが直接売買をおこなうことも可能です。
そうなれば、仲介手数料を支払う必要がないという点では、メリットと言えるでしょう。
しかし、契約をしている会社が、その間に販売のための広告費や活動経費をかけていたとすれば、あなたが負担をする可能性もありますので、注意が必要です。
今すでに買い手の候補がいるけれど、できればもっといい条件で売却をしたい、ということであれば、この契約はメリットといえるでしょう。
「一般媒介契約」
一つの不動産会社に絞らず、たくさんの会社に依頼することができます。
多くの会社に紹介してもらえる分、売れる確率もあがるのでは?と思われるかもしれませんが、この一般媒介契約は、会社側の義務というものがありません。
そのため、あなたへの報告やレインズへの登録がされない、という可能性があります。
不動産会社からしても、義務がないために、契約だけしてそのままになってしまっていたり、積極的に紹介していなかったり、とくに販売活動をおこなっていない、ということも起こりうるでしょう。
任意売却は、時間も限られていますから、そんなにのんびりされてしまっては、あなたも困りますよね。
これらの契約態様が、なかなか任意売却で売れない原因になっていることも考えられますので、あらためてどの態様で契約をしているのか、確認してみてください。
別のパートナー会社をみつける
今、あなたが既にどこかに任意売却を依頼していたとします。
それでも、他のところに相談はできますし、その際の相談料も、不動産会社であれば通常かからないハズです。
弁護士や司法書士などの士業事務所では、相談料がかかることもありますので、事前に確認してから相談しましょう。
あまりにも売却にむけての動きがない、近況を聞いても答えてくれなかったり返答が遅かったり、とにかく対応がわるい、などがあれば、遠慮なくほかのところへ相談してみましょう。
まとめ
ここまで、競売の流れまでを、時間経過とともに見てきました。
結局、競売でも任意売却でも、売却する日が一日遅れるということは、あなたにとって遅延損害金が一日分ふえる、ということでもあります。
売却をあせって足許を見られることは、あってはなりませんが、かといってのんびりしているワケにもいかないのが実際のところです。
「競売になる前に」という時間の勝負もありますが、「これ以上あなたの支払いをふやさない」という意味でも、時間の勝負ともいえるでしょう。
任意売却をしても、このまま売れなかったら…と心配しているだけでなく、とにかく、あなたにできるコトをする。
競売になる日まで、ただじっとしているのではなく、あなたから行動をすべきでしょう。