まさか自分の親が…
小さな頃から育ってきた家のローンが、今になって払えないという親の姿など、想像もしていなかったことでしょう。
しかし、フタを開けてみれば、もう限界。
あなたもそうですが、何よりご両親が、まさか自分たちの老後がこんな状況になるなんて…とショックを受けておられるかもしれません。
おそらく、住宅を購入した時には、子どもたちが独立したら、少しのあいだは夫婦ではたらいて繰り上げ返済。
それから定年退職になったら、退職金で残りのローンを完済し、あまった退職金で旅行にでもいって、あとは年金をもらいながら悠々自適な老後をおくろう…
そんな計画をたてておられたことでしょうから。
自分たちを育てるために、一生懸命はたらいて尽くしてくれた両親。
その老後の生活が、経済的余裕のないギリギリの生活なんて、そんな悲しいことはありませんよね。
この記事では、あなたの親が「住宅ローンを払えない」という事態に陥ってしまった場合の、解決方法についてお話ししていきます。
この記事の目次
なぜ起こる!?高齢者の住宅ローン破綻
バブル期に組んだローン
ゆとりローン
ステップローンとも言われたりしますが、まだお子さまが小さい最初のうち、一定期間(5年・10年)は返済額をひくく設定し、そこから返済額が一気にあがるというローン形態です。
当初は年功序列があたりまえでしたので、10年もたてば昇給しているという考えから、組む方も多かったようです。
しかし、バブル崩壊やリーマンショックなどにより、その予定が大幅にくるい、6年目・11年目に返済額がふえても、収入が変わっていない、逆に減収になってしまっている、ボーナス支給がなくなってしまったなど、返済の問題をかかえる人がふえたため、現在は廃止されています。
高金利
今では想像もつかないことですが、バブル期には8%をこえる金利でした。
それでも「家庭をもって自分の城を築く」という想いをもつ人は多く、金利が高かったとしても今の調子で給料があがっていけば、返していけるだろうと、みな家を買ったものです。
そこから、借り換えなどができればまだ良いでしょうが、仕事の状況や収入が変わってしまったりすれば、借り換えの審査がとおらないこともあります。
そうなれば、高い金利のまま返済をつづけることになり、その負担は年齢とともに重くなってくるでしょう。
予想をこえる収入減
ボーナスカットや減給、雇用形態の変更、退職金制度の廃止など、経済情勢による影響だけでなく、予期せぬ病気やケガなどにより、転職や失業をよぎなくされることもあるでしょう。
だからといって、返済を思うようにストップすることなどできません。
預貯金を切り崩して、なんとかヤリクリしていたけれど、もう限界になってしまった、というケースも少なくありません。

厚生労働省「国民生活基礎調査(2015年)」によると、高齢者世帯の手取り額の平均は211.6万円。
この収入であっても、毎月10万円をこえる住宅ローン返済があり、それがあと十年近くつづく、という親世代の方もいるのです。
住宅ローンのほかにも、食費や医療費、それにかかる交通費もでていくことになりますから、住宅ローンの負担はかなり重くのしかかっていると考えられます。
同居の減少
昔は二世帯・三世帯で、一緒にくらすことも珍しくありませんでした。
年老いた親を経済的にささえ、親も家のことを手伝うなど、協力しあってやっていくのが当たり前。
しかし、時代の流れとともに、今は別々にくらす世帯の方が多くなっていますよね。
そうなれば、それぞれに生計をたてることになり、なかなか親の援助まで手がまわらなくなるでしょう。
減りつづける年金受給額
年金をもらって、ゆとりある老後を…
今はそんな考えも薄れ、自力でなんとかしなければと準備しているかもしれませんが、親の世代はまだそうではありませんでした。
あなたの祖父母にあたる、自分の親の年金生活をしっているが故に、年金をアテにしていた人も少なくないでしょう。
増えつづける医療費負担

こちらも同じく厚生労働省調べ「国民医療費の概況(2016年)」のデータになりますが、一人当たりの年間医療費を表したものです。
60~64歳では27万円だった医療費が、10年後には約2倍の47万円にまでふえていることが分かります。
年齢がいけば、どこかしらかに不調が出るのは、いたしかたないことでしょう。
さらには、高齢者の医療費自己負担も、徐々に引きあげられていっている流れです。
住宅ローン返済のために、受けたい治療が思うように受けられない、ということが起こっても不思議ではないと言えます。
それだけでなく、稼ぎがないと返済ができないからと仕事も休めず、病院にもいかれないような状況にあるとすれば、心が痛まずにはいられません。
相談がおくれるケースが多い理由
孫がうまれて大変な時に、子どもに心配をかけたくない。
あなたも高齢になれば、きっと同じことを思うのではないでしょうか。
もしくは、子どもの世話にはなりたくないと、意地を張って隠してしまうことも考えられます。
経済的なことというのは、たとえ親子の仲であっても、なかなか言いづらい…言いたくない…そう思い、相談できない親は多いものです。
孫を連れてしょっちゅう会っていたのに、一度もそんな話がなかったので、まさかそこまで困っているとは思わなかった。
こんなことも、よくある話です。
自ら銀行へ相談にいってくれればまだ良いのですが、プライドが邪魔をしてそうすることもできず、ズルズルとそのまま時が経ち、もうどうにもならない状態になって、はじめて家族にうちあける。
最悪の場合、競売の通知がきてしまい、隠しきれずに発覚するということもあるでしょう。
強い責任感のあらわれとも言えるのでしょうが、そうなってからではできることが限られてしまいます。
もっと早くお会いしていれば…残念ながら、そう思わざるをえない状況にまでなってしまっていたケースもありました。
しかし、私たちのようにインターネットで情報をとる習慣がなければ、”何とか自力でお金を用意するしかない”と、自分を追い詰めることしかできず、ほかの方法を知ることなく時間がたっていってしまいます。
そして、競売にかけられてしまって、そこではじめて現実を受けいれるという親も、少なくないのが実際のところなのです。
親を住宅ローン破綻から救う3つの方法
分かった時点で、一日もはやくご相談いただきたいところではありますが、いきなり「相談しに行こう!」とだけいっても、感情的になって、なかなか前に進まないかもしれません。
そこからとれる方法として、ここでは3つ挙げておきたいと思いますが、もちろん条件や制限などがあるものですから、誰しもがとれる方法というワケではありません。
あなたの親御さんの状況だと、どの方法が有効かもふくめて、専門家からアドバイスをもらった方が間違いないでしょう。
親子間売買
字のごとくですが、親子の間で不動産の売買をおこなう契約です。
主に住宅(自宅)の売買をすることで、子が親の住宅を買うケースもあれば、その逆もあります。
たとえば、親がもう住宅ローンを払い続けることができないため、あなたが親御さんの自宅を買うことで、ご両親がそのまま住みつづけられるようにするという場合には、この親子間売買の取引になります。
しかしながら、あなたが親子間売買にあたり、住宅ローンを組むということになると、融資をしてくれる金融機関はほとんどありません。
なぜなら、金融機関からしてみれば、親御さんに万が一のことがあれば、そのままあなたが相続をすることになりますので、わざわざ相続をまたずに、売買をおこなうというのはおかしいと考えるからです。
仮に、あなた一人が相続人でなく、親戚や兄弟にも相続の権利があったりすると、その不動産を相続財産からはずす目的ととられたり、身内で見せかけの売買取引をおこない、住宅ローンとして貸したはずのお金を、別の目的に使われる可能性をうたがったりするのです。
ただし、親のローンが今回の売買取引によって完済できる、ということであれば、借り入れ先の金融機関にとっては、全額回収できるワケですから、問題なくOKしてくれるでしょう。
売買の価格は大きなポイントであり、高すぎても低すぎても、なにか別の目的をうたがわれてしまうため、慎重に決めなければなりません。
一度、審査に落ちてしまうと、その履歴が半年は残ってしまいますから、しっかりと準備をしてから申し込みをおこなうべきでしょう。
それから、あなたと親御さんのあいだで勝手に進めてしまうのではなく、他にも相続人にあたる人物がいるのであれば、事前に了解をえておくことと、可能ならば書面に残しておくことをオススメします。
リバースモーゲージ
原則として住民票をおいている住宅を担保に、金融機関から借り入れができる制度で、主に55~65歳以上を対象としたシニア層むけの貸付制度です。
現時点での不動産評価額の50~70%を融資上限額として、一括もしくは年金型でお金を借りる方法です。
借り入れ元本の返済は、債務者本人の死亡時か契約満了時に、不動産を売却することで一括返済をするため、それまでは利息のみを支払うだけということになります。
将来的には、不動産を売却することを前提としているため、あらかじめあなたを含む相続の権利をもつ人物全員から、同意をえる必要があります。
また、融資できるや物件の種類やエリア、申し込みができる年齢の制限や契約期間など、金融機関ごとに細かく条件がきめられていますので、事前によく確認をしてから申し込むよう、気を付けなければなりません。
現在、まだ残債があるというケースにおいては、借り換えのようなカタチで利用できる銀行もいくつかあります。
ただし、このリバースモーゲージは、メリットばかりではなく、デメリットもおおく存在していますので、それぞれ見ておきましょう。
メリット
・住み慣れた家に、そのまま住みつづけることができる
・資金使途に制限がないので、自由に使える(一部金融機関は制限あり)
・老後の生活資金を確保できる
・高齢でも借り入れができる
・月々のローン返済が利息のみになるため、毎月の金銭的負担がかるくなる(借り換え時)
デメリット
・年に一回、評価額の見なおしが行われ、限度額が変動する(場合によっては融資停止もある)
・契約満了時に生存している場合は、一括で返済をすることになる(終身契約は死亡時)
・一般市場での売却相場は80%、それよりは低い融資額であるため、売却するよりは損になる
・子どもに家という資産をのこせなくなる(子が一括返済する場合をのぞく)
売却
先にあげたリバースモーゲージにおいて、もしも存命中に一括返済をしなければならないとなってしまえば、結局はそこで売却せざるをえなくなります。
今よりもっと年老いてからの引っ越し…その精神的・肉体的な負担はとても大きいでしょう。
それならば、はじめから売却を選択するというのも、一つの方法です。
もしかしたら、ご両親は今の広すぎる家はもういらない、掃除やメンテナンスが大変だと思っていらっしゃるかもしれません。
それに、お子さまが独立してしまえば、夫婦ふたりきり。全部の部屋を使ってはいないのではないでしょうか。
生活圏が変わらないところにも賃貸物件はあるでしょうし、固定資産税の支払いがなくなることもあり、一般的には住宅ローンより賃料の方が安くなる傾向にあります。
高齢になってからは、一戸建てより管理の行きとどいているマンションの方が、住みやすくてラクだという声もありますから、それも一つの考え方かもしれません。
しかし、ここで問題になるのが、まだ住宅ローン残債があるケースです。
売却をすることで、完済できればいいのですが、残債よりも安くなってしまう場合、通常はそこで残りを一括返済することになります。
残りを一括返済する余裕がないということであれば、任意売却という選択もあります。
詳しくは、別記事『任意売却とは?競売との違いも含めてわかりやすく解説』にてお話ししていますので、こちらも併せてお読みいただければと思います。
まとめ
ここまで、住宅ローン破綻をさける方法についてお話ししてきましたが、何より一番大切なのは、親御さんの意向でしょう。
そこはやはり、時間をとって話しあいを重ねていくしかありません。
しかし、すでに返済が滞ってしまっている(滞ることがわかっている)という状況であれば、あまりのんびりしているワケにもいきません。
もしも話しあいをする中で、どうしてもお互い感情的になって、先に進まないという時には、専門家を交えて話をしてみることで、状況が変わることもあるでしょう。
私がサポートしてきた100組をこえるご家族の中にも、はじめは頑なに息子さんの話を聞かない親御さんがいらっしゃいました。
困り果てた息子さんからのご相談でしたが、私があいだに入り、お気持ちを伺いながらひとつずつご不安を解消して差しあげることで、最終的にはお子さまが案じている”老後の生活”への思いを受けとめ、一歩前へと踏みだされました。
返済への不安がなくなったことから、言いあいになることもなくなったようで、夫婦で仲良くハイキングに出かけたりするようになった、などとお聞かせいただき、私もこのご縁に感謝せずにはいられませんでした。
自分を大事に育ててくれた親の、老後の生活が破綻することなど、望んでいる子は誰ひとりいない。
その想いは絶対に届くと、私は信じています。